ここ数年の奈良観光への関心の高まりから、すっかり奈良の観光エリアとして定着した「ならまち」。
「ならまち」が位置する近鉄奈良駅の南側とは反対側。道路を挟み北側に位置するエリアが「きたまち」。
静謐な住宅街の中、まるで住宅のように店舗がしれっと入り混じる、静寂に包まれた上質なエリア。
近鉄奈良駅から北へ歩くこと3分足らず。京風に言うと「きたまち上ル」なところにあるお店が「さくらバーガー」さん。
奈良では非常に珍しいハンバーガーを専門に扱うお店です。
このお店を営むのが山戸旬人さん。このきたまちで7年目を迎える人気のハンバーガーショップです。
こちらまで癒されるような柔和な笑顔が特徴的な山戸さん。
今回、ならまっぷではさくらバーガーを営む山戸さんを、そしてこの笑顔からは想像もつかないくらい溢れるきたまち、奈良への想いを聞いてみました!
東京か地元・奈良か…決め手となった言葉とは?
奈良で育ち、高校卒業後東京で暮らしていたという山戸さん。
お店を営む家の娘さんと結婚したこともあり、漠然と夫婦で商売をしたいという想いを持っていたのだとか。
東京でサラリーマンをしていた頃にハンバーガーの美味しさに魅了された山戸さん。ハンバーガーショップを開くことを決心し、東京のハンバーガーショップにて修行の道へ進みます。
そんな中、ある時奈良にあった飲み屋さんで「奈良で仕事をするには難しさ、面白さが同居している」という話を聞き、奈良でお店をすることを決意したのだそう。
奈良で出店すると決断した後、場所を探し歩き回っていたところ、きたまちが持つ独特の空気感に惚れ、ある時からきたまち一本でお店を探すことに。
そして、現在の場所にお店を開くことにしたのだそうです。
奈良でお店を開くのには和のテイストを知ることが必要ではないか?
そう感じた山戸さんは東京のハンバーガー屋さんで修行したのち、奈良で和食の勉強をすることに。
お店のケチャップなどには醤油やみりんなど和の調味料を隠し味として使用。
ハンバーガーというアメリカンな食材に、和の食材を用いることで奈良らしい「和洋折衷」な味を引き出しています。
お店のロゴに隠された、奈良にまつわる伝説とは?!
きたまちでハンバーガーショップを開いて7年目を迎えるさくらバーガーさん。
アメリカンなテイストが感じられる瀟洒な外観に、まるで焼印をしたかのようなシックな色味のロゴ。
華美に飾りすぎず、かといって地味というわけではない。絶妙のバランス感覚の取れたデザイン。
なにやら動物にまたがる人。ハンバーガーショップということもあり、牛のように見えますが実は鹿。
鹿の下には桜の紋様をかたどった家紋が描かれています。
奈良に詳しい人ならもしかするとピンと来たかもしれませんが、この鹿は春日大社の祭神である武甕槌命が鹿島神宮から奈良の都へとやって来たという神話に基づいたもの。
ロゴを決めるのになかなか「これだ!」と思えるものが見つからず難航していた中、まるで素晴らしいアイデアが降ってきたかのようにこの家紋と鹿が描かれたデザインが出てきたのだそうです。
細かい部分にも、奈良への想いやこだわりが散りばめられています。
「きたまち」一帯の魅力発信の活動も!
「きたまち」を代表するお店として定着したさくらバーガーさん。
2017年4月に開催されたこま市ではハンバーガー求めて長蛇の列ができるほど人気のお店として定着しています。
そんな山戸さんの活動はハンバーガーショップのオーナーさんとしての活動だけでなく、店舗のある「きたまち」エリア一帯の魅力の発信にも精力的に取り組んでいます。
「歴史のモザイク」と呼ばれるほど多くの歴史的な史跡や名所が残るこの地域。
観光資源にもなりうる素晴らしいスポットがたくさんあるからこそ、このエリアの魅力を純粋に伝えていきたい。
そんな思いできたまちエリアの魅力を伝える紙媒体やイベントなども手がけています。
7月には「奈良きたまちweek」と題しきたまち界隈の飲食店や物販店舗、観光案内所、社寺などと連携して街巡りを楽しめるイベントを開催。
山戸さんはこの「奈良きたまちweek実行委員会」の実行委員長を務め、参加店舗を募るとともにフライヤーなどのPR媒体の制作も手がけています。
本年で5回目を迎える「奈良きたまちweek」。当初は50施設ほどの参加だったのですが、年々参加店舗が増え、今回は100以上の施設が参加することに!
当初はA4サイズで印刷をしていたそうですが、店舗が増えたことで各店舗を紹介するのには紙面が厳しくなったのだとか。
そんなこともあり、今回からタブロイド判にサイズを変更!たくさんの情報を盛り込むことができるようになったほか、「念願だった」というきたまち一帯のマップや観光案内もあり、これまでになく充実した内容となっているのだそうです。
山戸さんの「純粋に奈良の魅力を伝えたい」という想い。
各店舗にも共感の連鎖を生み、今ではきたまちの夏の風物詩ともいえる一大イベントへと成長を遂げていったのです。
「想いをかたちにしてみる」気軽に使えるイベントスペース「ホ・スセリ」の運営も!
ハンバーガーショップ、そして「奈良きたまちweek」の実行委員長と幅広く活動を手がける山戸さん。
もうひとつ、山戸さんが地元である奈良で「想いを持つ人」に対して気軽に使えるスペースを提供しています。
それが、さくらバーガーさんの2階に設けられているのがシミュレーションスペース「ホ・スセリ」
元々はこのフロアは倉庫で、オープン直後は空きスペースのようになっていたというところ。
「もし空いているのなら使わせて欲しい」という声もあったことから現在は貸しスペースとして運営を行なっています。
スペースの名称である「ホ・スセリ」は日本神話に登場する神様「火須勢理命(ホスセリノミコト)」にちなんで名付けられたこの場所。抱いている想いがより素晴らしいものとして実るようにという想いが込められているのだそうです。
「将来お店を開きたい、けどその前にシミュレーションをしたい」、「実店舗を持たないけど、イベントなどを開いて出店したい」という方などに向けて提供されているスペース。
「ホ・スセリ」内ではワークショップなどのイベントはもちろんのこと、厨房施設もあるため飲食関連のイベントで使うこともでき、設備も充実。
もし、「奈良で飲食店を開きたい!」そんな熱い想いを抱いているけれど、どうすればいいかわからない。課題を見つけたい。そんな方のシミュレーションなどに活用できるようになっています。
「奈良で何かをしたい」という方に向けて元々はオープンした場所ということですが、それ以外の方でも利用できる場所となっています。
ホ・スセリの中には非常にレトロなテイスト溢れる扇風機も。この扇風機はここで以前イベントを開いたレトロ雑貨を販売している方のイベントの際に山戸さんが一目惚れし買ったものなのだとか。
「想いをかたちにしてみたい」そんな志のある方はぜひ一度ご利用してみてはいかがでしょうか?
↓↓↓ホ・スセリの詳しい情報はこちら↓↓↓
いい意味で「ゆるい」奈良の良いところ
奈良で生まれ育ったのち、東京で生活を送り、そしてまた奈良へと舞い戻ってきた山戸さん。
地元、そして地元を離れて実感する奈良の良い点について聞いてみたところ、「いい意味で飲食店さんをはじめ、ゆるく繋がっているコミュニティがあることだと思います」という答えが。
「共通の友人がいたり、イベントに出店すると知っている人が多かったり…。ものすごい仲がいいという間柄ではないものの、知っている方が多いのでやりやすく感じる部分はあります」
店舗同士で競争をしていくという間柄ではなく、共に協力しあっていく。
店舗がひしめきあう東京とは異なり、奈良のいい意味で「田舎な」小さなコミュニティだからこそ生まれる緩やかな連帯感。
お客さんにオススメのお店を聞かれた際には知り合いのお店を紹介することもあるのだそう。
お店をはじめられてからは店舗間で持ちつ、持たれつの関係で仲良くやっていけるほのぼのとした空気にまた魅了されているのだそうです。
「楽しくやっていきたい」柔和な笑顔の中に、何度となく出てきたこの言葉。
心の底から楽しんでお店を、そしてきたまちや奈良の魅力発信に取り組んでおられる姿を見ることができました。
ギラギラとした商売っ気がなければやっていけない−
満面の笑みを浮かべる山戸さんの姿に、商いに対して抱きがちなステレオタイプに「奈良では決してそんなことはないんだよ」そうたおやかに教えていただいたような気がしたのでした。