奈良県御所市に蔵を構えて200年以上の歴史を誇り、奈良を代表する銘酒「風の森」を醸す油長酒造。生酒というものがまだ酒屋などにあまり出回っていない時代に「すっぴんのお酒を消費者へ届けたい」そんな思いで先代の社長がはじめておよそ20年。

 

 

今では奈良だけではなく、国際線のファーストクラスで提供されるお酒として選ばれるなどその美味しさは世界へと広がりつつあります。

 

上編では風の森誕生にまつわる経緯などを中心に紹介して来ましたが、今回の下編では風の森の楽しみ方など、知ればより風の森が美味しく感じられるエピソードなどをご紹介!これを知れば、あなたももっと油長酒造さんのお酒、そして風の森が好きになるはずです!

 

変化を楽しむお酒、それが「風の森」

ならまっぷ− 油長酒造さんの社長である山本さんが考える風の森の楽しみ方、オススメの飲み方などはあるでしょうか?

 

山本さん− 生酒ならではの変化だと思います。普通であれば、出荷した時点と酒販店に入る段階で状態は同じですが、風の森のような生酒だと、刻一刻と品質は変化していきます。ゆえにメーカーのみでは品質の管理ができません。買ってから消費者がどのように飲むかは自由ですが、造り手、酒販店、消費者の3者がクオリティの変化の中にいる…。そこがこのお酒の面白いと感じる点です。

 

ならまっぷ− 冷蔵庫に入れている間にも変化しているんですね…。

 

山本さん− 日々刻々と変化しているお酒というわけです。だからこそ、どんなお酒を造るか、ということはもちろん大事なんですが、誰に売っていただくか、誰に広めていただくかということも非常に大切なのです。

風の森の楽しいところは常に変化するお酒ということと考えています。品質はお店にある間、お客さんの手に渡る間にも変化していく…。だからこそ、管理をきっちりとできるお店に「風の森の伝道師」になっていただくということが大切なのです。

 

変化していくお酒ということもあり、取り扱うお店は非常に少ないのだとか。全国でも60店舗ほどのみで取り扱いを行っており、全体の流通量のうち6割ほどは関西で消費されるというお酒なのだそう。

 

生酒であるがゆえ「品質は常に変わっていく」一方で少しでも楽しむことのできる期間を長くする–

変化するお酒でありながら、長く飽くなき挑戦を続ける油長酒造さん。その中で山本さんが出したお酒造りでの考え方とは?

 

「変化しにくい生酒」を求めて…風の森を造る上で出した答えとは?

 

生酒であるため「味が変化していく」ことを楽しめる風の森。一方で生酒であるために品質の変化が早いため、これまでなかなか消費者に出回ることができなかった商品でもありました。「無濾過・生原酒」という点にこだわってお酒造りを行う「風の森」。その中で少しでも長く味の変化を楽しむための工夫について聞いてみました。

 

ならまっぷ− 常に味が変化していく生酒。少しでも長く楽しめるようにするために、油長酒造さんでは風の森を醸す上で何か工夫などはされているのでしょうか?

 

山本さん− 工程を極力シンプルにし、お酒と空気が触れたり撹拌しないようにすることだと思っています。搾り機までもろみを送ったら、搾ったお酒はバシャバシャとならないようにお酒を貯め、数日後におりが沈むのでその後静かに充填をしています。極力空気と触れないよう独自に開発した充填機を用いています。

 

ならまっぷ– ちなみに、一般的な蔵だとどのようにお酒を入れているんでしょうか?

 

山本さん– 一般的には火入れをされるお酒が大半ですので、幾度となくお酒を移動することが多いです。お酒を詰めるまでには濾過や火入れ、充填のために4〜5回くらいはお酒をあちらへ、こちらへと移動させるのではないでしょうか。

 

ならまっぷ– 入るまでの工数が全然違いますね…。

 

山本さん– 一般的なお酒であれば濾過や火入れの工程を経ることで味の変化がしにくくなるというメリットを得ることができます。一方で、こうすると生酒が持つ香りなどは徐々にスポイルされてしまいます。それも大切な技術ですが、生酒らしさは失われてしまう。そこで、「風の森」では液を揉まない、空気に触れないようにすることで生酒らしさ、そして長持ちする生酒造りが実現します。

 

ならまっぷ– そうしてあの「風の森」が生まれているんですね。ただ、泡だてて美味しい食べ物もありますよね。実は空気に触れたほうが美味しくなったりはしたいのではないでしょうか…?

 

山本さん- 最近流行りのスープを泡だてたラーメンなど、その場で食べるものであれば空気に触れることで香りが立って美味しくなると思います。ワインでもソムリエが空気に触れさせてから提供するように、すぐ飲むのであればいいのですが、これをお酒を詰める前にしてしまうと味が落ちてしまうので空気と触れないようにしています。ちなみに、風の森も飲む直前に空気に触れさせてから飲んだら美味しくなりますよ(笑)

 

 

年中生酒を造る!他の蔵にはない技術の背景とは…

「風の森」を醸す油長酒造さんの造りの中で、2年ほど前から本格的にはじまったのが本来は仕込みを行っていなかった夏場でのお酒造り。少し前であれば信じられないようなことができるようになった背景には技術革新もさることながら、風の森ならではのある特徴が大きく関係していました。

 

ならまっぷ− 一般の蔵であれば今の時期(取材は2017年6月上旬)であれば仕込みは休んでいると思うのですが、油長酒造さんは年中仕込みをされていると伺いました。年中生酒が出るというのは少し前であれば考えられないですよね…。

 

山本さん–  10あるお酒のうち、10が無濾過無加水生酒、それが「風の森」です。期間限定で販売する生酒ならともかく、「風の森」はそうではない。だからこそ、年中お酒を仕込める技術が必要だと思っています。

 

ならまっぷ− なるほど、確かに風の森といえば無濾過・無加水の生酒というのが特徴ですもんね。こういった考えに至るのに、何かきっかけはあったのでしょうか?

 

山本さん− 生酒を年中醸造できるようにすることで、常に新鮮なお酒を届けられのではないかな…。そのように考えました。かつてのように季節雇用のスタッフではできないのですが、蔵として製造技術を確率し、技術者を社内で育成することによってできるようになりました。実際に夏場に作ってみて、8月に仕込んだしぼりたてのお酒が4月に仕込んだものと比べて美味しいと感じることもあります。だからこそ、設備投資して真夏に造れないといけない、そう思い2年ほど前から本格的に夏場に造ることにしました。

 

夏場に仕込みを行うことによって、これまでになかったもう一つの製造サイクルが生まれ、より新鮮なお酒を届けることができるように。それとともに、生産量も調整しやすいので消費者にとっても会社にとっても好循環が生まれたのだそうです。

風の森を醸すタンク。温度管理がしやすい構造に

 

酒蔵の社長として、嬉しい場面とは?

 

ならまっぷ− 酒蔵さんとして、嬉しいと感じる場面とはどんな場面なのでしょうか?

 

山本さん− 嬉しかったことといえば、先日風の森が好きな方同士で結婚した夫婦から風の森の飾り樽を結婚式で使いたいというお申し出があり、その写真を送ってもらえたことですね。人の人生にも関わっているんだなと思いましたね。

 

ならまっぷ− 私も同じようにすることがあれば、風の森 alphaで結婚式か二次会かしたいですね。ラベルには「次章への扉」と書いてあるのでそういった場面にもぴったりですし(笑)

 

山本さん− あのお酒を飲めば本当に日本酒が好きになる人もいるはずです。日本酒の美味しさに目覚めていただきたいと思って造ったお酒です。

 

時に人をつなぎ、縁にもなる風の森。ちなみに飾り樽はレンタルをしているのだとか。結婚を控えた風の森ファンのみなさま、いつも風の森をお求めの酒屋さんにご相談してみては?

 

奈良の酒蔵として「新たなスタンダード」を作りたい

ならまっぷ− ならまっぷということで、奈良のお酒として、様々な歴史、美味しいお酒があるかと思いますが、飲み手の方に対して「奈良のお酒として」何かメッセージなどはないでしょうか?

 

山本さん− 奈良のお酒としての思いが強いのですが、室町時代から清酒発祥の地として火入れなど現代にも通じる様々な技術が生まれて来たのが奈良なんです。だからこそ、風の森ももう一度、また未来に通じる日本酒の技術のスタンダードをこの奈良から創りたいと思っています。

 

ならまっぷ− 100年後、200年後のお酒の技術書などに「平成時代:油長酒造、風の森」などと載っているような形が理想なんですね。

 

山本さん− そうなったら最高ですね!最近買ったお酒の本に、江戸時代の「鴻池流」という造りをしていた方が書いた面白い本を見つけまして。その中に室町時代に築かれた「奈良流」という造りが紹介されていたのですが、この奈良流が源となって伏見や伊丹などに広がっていったそうなんです。

 

ならまっぷ– 近代技術革新の源なんですね!

 

山本さん− まさに近代醸造法の基礎になったのが当時の奈良流なんです。私たちもいつの日か、ユニークな日本酒の造り方を見出して、かつ美味しいお酒を造ることができたら面白いなと思っています。それもまた興味であり仕事ではないかと。そこまでしっかり考えられるように柔軟な発想などを持ち合わせていたいと思っています。

 

 

会社が大きくなっていく中で生酒の生産から火入れのお酒へと移っていく酒蔵が多い中、品質が変化していく生酒へのこだわりを熱く語っていただいた山本さん。

 

時代の変化の中で、次々に革新的なお酒造りの技術を生み出していく一方で「本能で美味しいと感じる味を造りたい」とスペックやブランドなどではなく、純粋な美味しさを追求する情熱。

 

近い将来、これまででは決して想像もできないような新しいスタンダードを、このはじまりの地、奈良から全国へ。新しい風を巻き起こすことでしょう−